
【DeNA】2025戦力分析
主力選手の退団は、停滞か進化か。セイバーメトリクスで読み解く、ベイスターズの戦略シフト。
2025年オフ、横浜DeNAベイスターズは歴史的なターニングポイントを迎えました。
チームの象徴であり、魂そのものであった桑原将志選手のFA移籍。そして、圧倒的な破壊力で打線を牽引したタイラー・オースティン選手をはじめとする助っ人勢の退団。長年チームを支えた功労者たちとの別れは、ファンにとって身を切られるような痛みであることは間違いありません。
しかし、フロントオフィス、あるいはGMの視座に立てば、この動きは単なる「主力流出」ではなく、緻密に計算された「中長期的な構造転換(モダナイゼーション)」の号砲と捉えることができます。
本稿では、セイバーメトリクスの重要指標であるK/BB、OPS、そしてAge Curve(年齢曲線)を軸に、新生ベイスターズがどのようなロジックで2026年シーズンを戦おうとしているのか、専門的な視点から考察します。
1. チームの設計図:「牧世代」を中心とした年齢分布の最適化
現代野球の編成において最も重要な概念の一つが「Age Curve(年齢曲線)」です。一般的に野手のピークは26歳〜29歳とされており、この層にコアメンバーを集中させることが、優勝への最短距離となります。
| フェーズ | 投手 (P) | 捕手 (C) | 内野手 (IF) | 外野手 (OF) |
|---|---|---|---|---|
| Veteran (35歳〜) |
– | 戸柱 恭孝 (35) | 宮﨑 敏郎 (37) D.ビシエド (36) |
筒香 嘉智 (34) |
| Prime (30〜34歳) |
山﨑 康晃 (33) 東 克樹 (30) 藤浪 晋太郎 (31)等 |
– | 京田 陽太 (31) 柴田 竜拓 (32) |
佐野 恵太 (31) C.ヒュンメル (31) |
| Peak Generation (25〜29歳) |
伊勢 大夢 (27) 入江 大生 (27) A.コックス (28)等 |
山本 祐大 (27) | 牧 秀悟 (27) 三森 大貴 (26) |
梶原 昂希 (26) 蝦名 達夫 (28) |
| Prospect (〜24歳) |
小園 健太 (22) 松本 隆之介 (23)等 |
松尾 汐恩 (21) | 森 敬斗 (23) 石上 泰輝 (24) |
度会 隆輝 (23) |
分析の要諦
現在のDeNAは、牧秀悟選手、山本祐大選手という投打の柱が「Peak層」に完璧に合致しています。ここに補強の焦点を合わせ、限られたリソースをこの世代に集中させることで、2026年〜2027年にチーム全体のピークを最大化させるという戦略的意図が鮮明に浮かび上がります。
2. 投手力再建のロジック:「防御率」から「支配力」へ
ジャクソン投手、ケイ投手の退団による「イニング不足」を懸念する声は多いでしょう。しかし、セイバーメトリクスにおいて防御率は環境に左右されやすい指標です。フロントが重視したのは、より投手の純粋な能力を示すK/BB(奪三振÷与四球)でした。
K/BBによる「リスクマネジメント」の比較
| 選手名 | 投球回 | K/BB (制球・支配力) | K/9 (奪三振率) | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| A.ジャクソン | 150.2 | 1.98 | 6.53 | 平均的水準 |
| J.デュプランティエ | 90.2 | 5.65 | 11.27 | エリート級 |
横浜スタジアムという、リーグ屈指の「ホームランパーク」において、打球がフィールドに飛ぶことは常に失点リスクを伴います。ジャクソン投手の1.98というK/BBは、四球による自滅リスクを孕んでいました。
対する新戦力のデュプランティエ投手(想定)の数値は驚異的です。「打たせて取る」から「三振で完結させる」スタイルへのシフトは、パークファクターを考慮した極めて合理的なアップグレードと言えるでしょう。
3. 攻撃陣の再設計:個人の「穴」を機能の「再配置」で埋める
オースティン選手という「個」の力は、代替不可能です。しかし、野球は「アウトにならない確率」を競うゲームです。特定のスーパースターに依存する構造から、データに基づく「機能分担(プラトーン)」への移行が鍵となります。
ポスト桑原:1番打者に求めるのは「OBP(出塁率)」
1番打者の価値は、足の速さではなく「どれだけ高い確率で一塁にいるか」に集約されます。
- 蝦名 達夫: 出塁率 .348(対左投手への強さ)
- 度会 隆輝: 出塁率 .410(2軍実績・卓越したコンタクト能力)
この両名を相手投手の左右によって使い分ける「プラトーン起用」を徹底することで、1番打者としてのトータル出塁率は、昨季を上回るポテンシャルを秘めています。
ポスト・オースティン:内部資産の最大化と「松尾汐恩」の解禁
最大の注目は、至宝・松尾汐恩選手の起用法です。2軍で叩き出したOPS 1.013という数字は、もはやマイナーレベルに留めておくべき器ではないことを示しています。
「捕手」という重責から一時的に解き放ち、内野あるいは外野としての出場機会を増やすことで、彼の打撃アセットをフル活用する。これは、チーム全体のOPS(出塁率+長打率)を底上げするための最も効率的な手段となります。
4. 戦略的補強:人的補償というパズルのラストピース
桑原選手の西武移籍に伴う人的補償。ここで狙うべきは、現在の布陣に欠けている「右打ちのアスリート型外野手」です。
推奨ターゲット:長谷川 信哉 選手(西武)
理由1:年齢の適合性
DeNAのコア層である23歳。牧世代と長期にわたって共闘できるタイムラインを持っています。
理由2:属性の補完
現在の外野陣(佐野、度会、梶原)は左打者に偏重。身体能力に長けた右打ちの長谷川選手は、守備・走塁を含め、桑原選手が担っていた役割を最もスムーズに継承できる存在です。
5. 結びに:構造転換の先にある「黄金時代」へ
主力選手の退団という「痛み」を伴う決断は、経営の視点から見れば、最も投資対効果(ROI)が高いPeak世代へリソースを一気にシフトさせる「選択と集中」に他なりません。
現在のベイスターズは、ファームでの成果が1軍の戦略にダイレクトに反映される「一気通貫」のシステムが機能し始めています。このアジャイルな組織構造こそが、変化の激しい現代野球において、一時的な勝利ではなく数年続く「常勝のサイクル」を生むための不可欠な投資なのです。
データは嘘をつきません。しかし、グラウンドでその数字を現実に変えるのは選手の「熱量」であり、スタンドの「声援」です。2026年、若き才能たちがこの設計図をどう塗り替えていくのか。構造転換の先にある真の黄金時代を、私たちは目撃することになるでしょう。
付録:2026年シーズン 選手編成・年齢分布一覧
本稿の分析に使用した、2026年シーズン想定の全選手リストです。年齢は2026年の満年齢を基準としています。
| フェーズ (Legend) |
投手 (P) | 捕手 (C) | 内野手 (IF) | 外野手 (OF) |
|---|---|---|---|---|
| 35歳以上 Veteran |
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| 30〜34歳 Prime |
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| 25〜29歳 Young / Peak |
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| 24歳以下 Young / Prospect |
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★:新規加入選手(移籍・新外国人・新人)


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